SPECIAL

2018.07.06 SPECIAL

『プラネット・ウィズ』
原作・水上悟志スペシャル対談企画 第2回
漫画家・石黒正数

■ いきなり「あんたはおれのライバルだ!」って言われて(笑)

――二人のお付き合いは、どれくらいになるんですか?

水上:
もう10年以上経ちますね。石黒さんの『それでも町は廻っている』と『惑星のさみだれ』はほぼ同時期に始まったんですけど、 その後すぐにアワーズが中綴じから平綴じに変わって、その記念パーティーが2月か3月頃にあって……。
石黒:
そうそう、新年会でもない半端な時期のパーティーで、水上さんとはそこで初めてお会いしたんです。 でも挨拶したら、いきなり「あんたはおれのライバルだ!」って言われて(笑)。
水上:
『ヒーロー』(※少年画報社「Present for me ~石黒 正数 短編集~」収録)って石黒さんのデビュー作なんですけど、おれはあれを読んで読み切りの描き方が分かった気がしたんですよ。『ヒーロー』は「敵を全部やっつけた後、ヒーローはどうなるの?」というテーマの作品なんですけど、読む側の「ヒーローモノのお約束」みたいな共通認識を使って、そこまでの経緯が分かるように上手く省略されているんです。それで「読み切りでこんなことができるのか。描きたい結末をいきなり描いてもいいんだ!」と、すごく感動したんです。

――それが、いきなりのライバル発言に繋がったわけですね。

石黒:
こんなに衝撃的な出会い方をした男もいない(笑)。
水上:
もうちょっと初対面らしい挨拶もしたと思うんですけど……(笑)。
石黒:
いや、初対面っぽさはまったくなかった。そのときのことを最近漫画で描いたんですけど(※少年画報社「おばけ道 THE END」収録)、それを読ませても「おれこんなだったかなぁ?」って、すごい不満そうで。
「おばけ道 THE END」(刊行:少年画報社)
水上:
似顔絵もソックリなんだけど、何か悪意が入っていて、スネ夫っぽい感じに描かれてるし(笑)。 あのときは「あの『ヒーロー』の作者と、こんなところで出会うとは!」という感動もあったし、 『さみだれ』も同時期に始まって「これはいい出会いだぞ」と……その乾いた笑みは何?
石黒:
別に普通です、元々こういうテンションの生き物なので(笑)。

――それからは、親しくしつつも切磋琢磨し合う間柄に?

石黒:
元々漫画家をライバル視する感覚がまったくなくて、水上さんとは雑誌も一緒で歳も近いですし、 切磋琢磨というよりは完全に友だちという感覚ですね。
水上:
おれもライバル宣言はしましたけど、結局漫画って1人で描くものですし(笑)。 普通に毎月楽しく『それ町』を読んで、『さみだれ』も読んでもらえてたらいいなと。
石黒:
新年会で会えば他の誰かと一緒に雑談したりとか、そういう関係ですね。

■ 水上さんって「漫画でアニメを描いてる人だな」という印象があります

――石黒先生から見た、水上作品の印象は?

石黒:
水上さんって「漫画でアニメを描いてる人だな」という印象があります……ひと言で終わってしまった(笑)。例えば浦沢直樹先生は漫画で映画を再現している方だと思いますし、絵本のようなことを漫画でやっている方もいる。そういう色んな方がいる中で、水上さんは漫画でアニメを描いているなと思ってました。
水上:
確かに、そういうつもりで描いていますね。

――逆に、水上先生から見て石黒作品はどんな印象ですか?

水上:
キチンとした言葉では表現できないんですけど……例えば手頃な大きさの石があるとして、石自体には手を加えずに色んなことをやったり色んな角度から見せたりして、石自体を面白いものに感じさせる人ですかね。
石黒:
良く言えばそうだけど、簡潔に言えば「面倒くさい漫画」でしょ(笑)?
水上:
その石の後ろにも何か隠していて、でも絶対に誰にも言わずに見えないアングルで描いたり、そういうことをよくやる。
石黒:
やってるかもしれない。しかも、隠したままで10年経っていたりする(笑)。 あと、これは水上さんとの共通点だと思うんですけれど、もっと長く使えそうな大ネタを出し惜しみなくパッと使ってしまうところがあって、そこは似てるなと思います。
水上:
それはよく言われますね。『スピリットサークル』のときも、やまむらはじめさんに「もっとじっくり描けばいいのに」って言われましたし。
石黒:
あの作品は、あれくらいでちょうどいいと思いますけど(笑)

――美意識というか、落としどころの感覚が似ている?

水上:
美意識もあるけど……。
石黒:
焦りの方が強い。すぐに描き終えて、早く次に行かなきゃいけない気がするんですよ。「最後まで描き切る前に打ち切られたら、どうする?」とか、ついつい考えちゃいますね。
水上:
同じです。『散人左道』の最初の頃は、「ダラダラ長く続けてやろう」という気持ちがまだあったんですよ。でも1巻が出た頃に打ち切りが決まって、そこからラストまでの構成を改めて組み直したんです。
石黒:
怖い話だなあ(笑)。
水上:
だから『さみだれ』は打ち切りが怖くて、1巻で主人公にやることを全部やらせて、その後も続くようであれば他のキャラクターたちの願い事を軸にしようと。そうすればとりあえず読み切りとして1話ずつ描けるだろうと、そういう感じで続けていました。
石黒:
まったく同じ感覚ですね、「ネタをなるべく簡潔に使いつつ、急いで描かないと」というのが常にあって、美意識といえば聞こえはいいけど、常に追い詰められている感じというか。
あと個人的には、子供の頃に愛読していた藤子・F・不二雄先生の短編の影響が大きい。ネタを1話で簡潔に見せていくスタイルで、「漫画とはこういうものだ」という感覚が刷り込まれているんですよね。

――そういう意味では、連載中の『天国大魔境』は新たな挑戦?

石黒:
デビューして10数年間ずっと1話完結モノをやってきて、今描いている『天国大魔境』が初の長編なんですけど、これを描くまではずっと1話完結が一番辛いスタイルだと思っていたんです。伏線を張ってひと捻りしてオチを付けて、これを毎回やるのは本当にしんどいなって思っていたんですけど……いざやってみたら、長編の方が辛いですね。
水上:
それはおれも思いました。デビュー当初は読み切りをいっぱい描いていて、そこからいきなり長編のプロットを描いたとき、「あ、長編の方が難しいな」って。
石黒:
1話完結だと、たまに気に入らない話を描いてしまっても「来月もっと面白いのを描けばいいか」と思えるけど、長編は一度道を逸れ始めると立て直しが効かなくなるという恐ろしさがあって、すごく怖い。
水上:
そういうときは、いきなり大爆発を起こして「それから1年後」とかにしてもいいんですよ(笑)。場面転換や時間経過で仕切り直しすれば、大丈夫です。
石黒:
そうか……最悪そうしよう(笑)。

――『天国大魔境』は、どれくらい続く予定ですか?

石黒:
最短で5巻くらいかなと思ってます。ただ『それ町』のときも「4巻くらいで」と言いつつ終わってみれば16巻だったので(笑)。長く続けられたら嬉しいんですけど、何とか5巻までは続けたいですね。

――1巻の発売ももうすぐですね。

石黒:
『天国大魔境』第1巻は7月23日発売です、第1巻は7月23日発売です(笑)。

■ おれだったらこういう企画は断る。でも、だからこそ今回は「すごい、やりやがったな!」って思いましたよ

――石黒さんは、『プラネット・ウィズ』の漫画は?

石黒:
アワーズの連載分は読んでいます。いやぁずっと読んでるよ、水上さんの漫画は(笑)。

――感想はいかがですか?

石黒:
「あんまんかよ!!!」は、すごく良かった(笑)。それに、ああいうギャグに1ページ使っている辺り、今回はけっこう余裕を持ってやられている感じがしますね。
水上:
『プラネット・ウィズ』のネームはすでにラストまで描いてあるんですけど、それは基本的にはアニメスタッフに見てもらうためのもので、コマ割りも映像化を意識して描いているんです。だから漫画の方はそこを一応直しながらやっているんですけど、やはりこれまでとはコマ割りも変わっていますね。『さみだれ』や『スピリットサークル』のときは、詰められるものは極力詰めていたので。

――『プラネット・ウィズ』のアニメ企画については、どう思われましたか?

石黒:
今回水上さんは企画段階から関わっていて、そこはおれとは一番違うところで尊敬している部分でもあるんですけれど、関わる人が多い分責任も重くなるのに、よくやったもんだなと(笑)。おれだったら恐ろしくてできないし、責任の取りようがないのでこういう企画は断る。でも、だからこそ今回は「すごい、やりやがったな!」って思いましたね。
そういう意味では、今回の『プラネット・ウィズ』は『それ町』とはちょっと違うんですけれど……1つだけ、エールというか忠告したいことがあって。
水上:
何それ、怖い(笑)。
石黒:
『それ町』のときは、アニメ化のタイミングに合わせて色んな出版社から依頼が来て、他の単行本や短編集などの作業で毎日2~4時間しか寝られない生活が1ヶ月続いたんです。最終的には、見たこともない不思議な武器を持って各社の担当を追い回す妄想をしながら作業を続けていたので……そんな風にならないよう、気を付けてください(笑)。
水上:
気を付けます(笑)。ちなみに、「見たことない武器」って何ですか?
石黒:
自分でも分からない。バットみたいな奴なんだけど、突然刃がガーっと飛び出したりしてた(笑)。でも決して仕事自体は嫌だったわけではなくて……『それ町』のときはほぼ無名の状態で連載が始まって、ネットのブログや口コミなどで徐々に人気が出て、1巻も部数を抑えたら足りず……みたいな感じで、筋トレする内に徐々に筋肉が付いていくように、ホントに少しずつのし上がっていった感覚がありましたね。アニメ化されたときも素直に嬉しかったし、自由に作って下さいってポンとお任せした感じでしたし。だから『それ町』に関して言えば、変なわだかまりも何も一切なく、これこそ正しいまんが道だったなと、今にして思います。
そういう意味では、水上さんも同じように筋肉付けていきながら着実にキャリアアップして来た人だと思うし、恐らくその実感もあると思う。だから、アニメ化の話も受けたわけですよね?
水上:
さっき「漫画でアニメ描いてる」って言われましたけど、「アニメをやりたい」というのは本当に昔からありましたし、どうせやるなら最初から最後まで自分でシリーズ構成したいと思っていたんですよね。今回のお話が最初に来たのは、『スピリットサークル』や『戦国妖狐』を連載していた4年ほど前なんですけど、作業を待ってくれるということだったので、だったら好き勝手にやってみようと覚悟を決めて、やりたかったことをやっただけなんです。
確かに作画もすごく良いですし、これで面白くなかったら100%おれの責任になってしまうとは思うんですけど、そういう責任の所在を明らかにした上で「おれの構成力を見ろ!」とは言いたい。構成力には本当に自信があったので、だから引き受けたということですね。
石黒:
アニメも楽しみにしてます(笑)。

石黒正数(いしぐろ まさかず)

1977年生まれ、福井県出身。漫画家。2000年に『ヒーロー』でアフタヌーン四季賞秋の四季賞を受賞し、プロデビュー。2005年に連載開始した『それでも町は廻っている』は、2010年にテレビアニメ化され、2013年には第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞を受賞。その後も『木曜日のフルット』『外天楼』『ネムルバカ』など、幅広いジャンルを手掛ける。現在は週刊チャンピオンで「木曜日のフルット」, 月刊アフタヌーンにて、『天国大魔境』を連載中。

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