SPECIAL

2018.06.29 SPECIAL

『プラネット・ウィズ』
原作・水上悟志スペシャル対談企画 第1回
アニメ監督・吉浦康裕

■ 吉浦「自分の感性にとても近いものを感じる」

――吉浦監督は、水上先生の漫画のファンだとお聞きしましたが。

吉浦:
実はファン歴はごく浅く、2017年に公開された『虚無をゆく』にハマってから短編集はほぼ全部、 『惑星のさみだれ』『スピリットサークル』などの長編も読ませて頂きました。
いつでも読めるよう電子書籍リーダーに入っています。
水上:
ありがとうございます。嬉しいです。

――吉浦監督は、水上先生の作品のどのような点がお好きですか?

吉浦:
先生ご本人を前にお恥ずかしいですが、大げさに言うと「自分の感性にとても近いものを感じる」と思える点です。 キャラクターの考え方や行動がひとつひとつ腑に落ちて、読んでいて気持ち良いのです。 特に『虚無をゆく』は全ての要素が大好きで、74ページというボリュームをウェブで読めたのも印象に残っています。 過度にウェットにならず、普通ならもっと散漫になる話をギュッと一作品に凝縮している。 また僕は、輪廻というテーマや人の一生を俯瞰する視点に昔から惹かれるので、水上先生の世界観はどの作品もたまらなく魅力的です。

――水上先生も、吉浦監督の手がけたアニメ作品は以前から注目されていたそうですが、中でもお好きな作品をお教え下さい。

水上:
『機動警察パトレイバーREBOOT』ですね。全ての構成、展開、演出が時間内に綺麗にまとまっていて、 オリジナルのキャラクターなのに「あの世界の特車二課」というのがすぐに解る。 この設定でのTVシリーズも観たいと思わせるほど、素晴らしい完成度でした。
吉浦:
ありがとうございます。 『パトレイバー』は僕も生半可な作品は作れないと意気込んだので、キャラや世界観も「1クール放映した」のを前提に作り込むイメージでした。

――お二人は漫画とアニメでそれぞれ、短編の名手でもいらっしゃいますね。

水上:
短編は連載の合間や空き時間にネームを作って描いています。 作画は手を動かしているうちに終わるというか、ネームも早ければ3~4日で完成する時もあります。
吉浦:
アニメ業界の僕からだと、漫画はアイデアを形にするスパンが短いのがいいですね。 それに漫画は、作品のジャンル分けも懐が深いというか、アニメになるとそこが急に狭まる事があるんです。 例えば異世界が舞台の作品だと、アニメの場合はもっと世界観の描写に時間と労力をかけがちですが、 一方で水上先生の『スピリットサークル』では、寝台というキーワードでさり気なく、かつ効果的に世界観を表現しています。 これぞ漫画的演出の妙ですね。僕が漫画の苦労を知らないから軽々しく言えるのかもしれませんが(笑)。
水上:
恐縮ですが、苦労はあまりしていません。漫画だと自分が描きたくないものは描かなくてもいいから(笑)。 私は『プラネット・ウィズ』で逆に、漫画なら適当に流せるのに、アニメは細かく決めないといけない事が沢山あると学びました。 アニメは大人数で情報を共有して作り上げるものだから、もしかしたら中にはもっと自由に描きたい、と歯がゆく思う人も居るのかもしれない。 その違いは吉浦監督の言う通りですね。

■ 水上「吉浦監督は『アイデアの実現力』が素晴らしいと思います」

――SF作品を多く手がけられているお二人で、作風に影響を与えた作品があればお聞かせ下さい。

水上:
子供の頃だとファミコンの『ラグランジュポイント』が大好きでした。これは語ると長い(笑)。あとは当時放映していたアニメ類や漫画ですね。 SFはもちろん好きですが、その理由をよく考えたら「現実が嫌い」なだけだと最近気が付きました(笑)。 SFなら現実の先にこういうこともあるかもしれない、という希望が持てるじゃないですか。
吉浦:
それは『惑星のさみだれ』を読むとピンと来ます。 僕だとSF好きになったのは、アシモフやハインラインを子供向けに翻訳した全集を親に与えられたのがきっかけでした。
水上:
その『惑星のさみだれ』の中盤くらいから、物質的な絵の描き込みよりスピリチュアルな思考に寄って、幽体離脱や明晰夢についての本も一時期沢山読みました。夢ってすごいファクターで、何でもありなんですよ。吉浦監督の『サカサマのパテマ』も面白く拝見しましたが、あのアイデア自体は思いつく人も多いと思います。しかし、SFの中でも扱いの難しいテーマなので、きちんと脚本を書いて物語を展開し、最後にどんでん返しまで用意するなんて、と驚きました。
吉浦:
空を見上げた時「ああ、落っこちる」というような感覚にとらわれる発想は、誰もが妄想することだと思っていたのですが、実は周りでは「考えたことが無い」という人の方が多かったんですよ。その後に作った短編『ヒストリー機関』もよくある設定ではありますが、SFはアイデア自体は普遍的で良いので、それを丁寧に演出して観せるのがベストなのかなと思います。『パトレイバーREBOOT』なんてまさにその集大成で、奇抜さより手練手管でいかに面白く演出するか、が制作当時の最大のテーマでした。
水上:
吉浦監督はそういう「アイデアの実現力」が秀逸なのでしょう。『サカサマのパテマ』も互いの世界に属している物体の重力がそれぞれ違うので、主人公の持ち物が手から離れた時にどういう軌跡で落ちるか、取っ組み合いをして細かい破片が散ったらどうなるか、全て制御しながらアニメーションで描かれているのが凄い。
吉浦:
あれは『透明人間の告白』というSF小説の傑作がありまして、主人公が施設の一角ごと透明になり、陰謀に巻き込まれてしまうのですが、彼は逃亡時に透明になった周りの物質を持ち出すのです。逆さまになった物質とそうでない物質を分ける、というアイデアはそこから生まれました。水上先生も、作品からこういうロジックがお好きかなと感じます。
水上:
そうですね、SFでも何となく理屈が通っていないとすっきりしない。とは言っても、私の漫画はいつもキャラが叫んで何となく解決しちゃいますが(笑)。

■ 水上「私の頭の中に浮かぶ構成や演出を人に伝えるためには、漫画を描くしか方法が無い」

吉浦:
『プラネット・ウィズ』は、TV放送に先駆けて雑誌で連載開始したんですね。 単純なコミカライズでは無く、水上先生が原作者かつアニメも同時制作という。
水上:
そうです。アニメ12話分のシナリオ原案として描いたのがこれ(ネームの束)です。
吉浦:
(手にしながら)もう最終回まで描いてある。今すぐ全部読みたいのに、この量はすぐには読みきれない……!
水上:
漫画版はそのネームを手直しながら描いています。 普通の連載だと「ここは変だな」と思ったら後からフォロー出来ますが、 今回は最終話までネームを描いてからの連載なので、 大きな設定変更は出来ませんが。

――アニメ監督として、水上先生のネームをご覧になっていかがですか?

吉浦:
ちゃんと「Aパート」「Bパート」と区切られている。最近だと『ユーリ!!! on ICE』の久保ミツロウ先生も同様にされていましたが、あの作品も漫画特有のテンポが感じられて驚きました。
水上:
『プラネット・ウィズ』はネームを読みながらストップウォッチで計って、ここまででAパート終わり、とやっています。
吉浦:
アニメ側の人間としては大感謝です(笑)。
水上:
尺に収めるため、どうしても個性を主張し辛いキャラも出てしまうので、漫画版ではそこを少し補強しています。 後は読みやすいようにコマ割りやアングルを少し変える、扉絵を入れる、誌面に合わせて右側のページで終わるよう調整する、 という感じですね。
吉浦:
拝見して、アニメで絵コンテを書く時の「情報を整理して共有する」というのは、 漫画のネームに通ずるものがあると思いました。また、先程の「漫画は不要なものは描かないでいい」というのが、 アニメ制作側の人間からしたら羨ましい(笑)。
水上:
そういえば、私の上や下の世代だと絵に物凄くこだわりを持っている漫画家さんは多いですが、 同年代だと意外とそうではないかもしれません。私個人は物質的に絵を描き込みたいというより、 頭の中に浮かぶ構成や演出を人に伝えるためには、漫画を描くしか方法が無いのです。
吉浦:
しかし水上先生の作品は、絵も非常に丁寧に描かれていると思います。
水上:
物質的な描き込みに重きを置かないとはいえ、『虚無をゆく』では怪魚の巨大感を出すためにかなりの描き込みをしています。巨大な存在は物体のはっきりとした重みと、空気の厚みを含んだ少しぼんやりとしたイメージの両方を持っているのが良いですね。この怪魚や『惑星のさみだれ』のビスケットハンマーは、描いていてすごく楽しかったです。
吉浦:
『プラネット・ウィズ』にも、全体像が把握できないほど巨大な龍が登場しますね。僕が『POWER PLANT No.33』という巨大怪獣アニメを作った時は、怪獣を美術背景として描く事で巨大感を演出しました。怪獣映画にみられる「塊だけど捉えようのない感じ」の魅力は非常に解ります。作る方に回ると意外とアニメを観なくなるものですが、『プラネット・ウィズ』は必ず観ます。
水上:
ありがとうございます。

吉浦 康裕(よしうら やすひろ)

1980年4月3日生まれ。北海道出身。アニメーション監督。九州芸術工科大学(現・九州大学芸術工学部)在学中からアニメーション制作を開始し、『イヴの時間』(2008~09)では東京国際アニメフェアOVA部門優秀作品賞、『サカサマのパテマ』(2013)では第17回文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞。その他にも日本アニメ(ーター)見本市にて『機動警察パトレイバーREBOOT』(2016)をはじめとした作品群を発表している。

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